先日B2Bマーケティングのプロフェッショナルであるシンフォニーマーケティングの代表の庭山一郎氏が書いた『儲けの科学 The B2B Marketing』という書籍が出版されました。マーケティング業界やB2B領域をターゲットにしている業界の方々の間ですでに話題になっています。

B2B(法人向け)ビジネスは、例えば、利用者と購買者が分かれてしまうことや、稟議という承認プロセスがあったりなどと、特異なことが多い領域です。このような領域に特化した情報はなかなかなく、マーケティング担当者が培ってきた経験に基づくものが多いと思います。かくいう筆者も10年以上B2Bの領域に身を置き、かつ営業などの職種も経験したことから、解像度の高い顧客理解をすることができるようになっています。

開発・マーケティング・営業の3つの組織の協力体制の重要性

ものづくりとマーケティングとセールスが高度に連携した場合、売上の成長は19%早くなり、利益は15%も増加する

ーp156

おそらく本書で最もインパクトのある一文だと思います。本当なの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この数字はアメリカでB2Bマーケティング領域での調査を特異とするシリウスディシジョンズ社が実際に行った調査結果による数字のため、かなり信憑性の高いものと言えると思います。トップランナーほどになれば、マーケティング機能をものづくりや営業と同じレベル感で戦略的に掲げ、それらがしっかり連動(アラインメント)するような組織、戦略を作ることが重要であると本書では一貫してメッセージしておられます。その機能の総称として「マーケティング・オーケストレーション」、それを牽引する役職として「チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)」が必要であるといいます。

また、マーケティングとは「市場とその中の顧客を創造し、顧客との関係を維持し、拡大すること」と定義し、顧客を創造することにマーケティングの重要な立ち位置を提示し、売上の最大化に貢献することがマーケティングのミッションであり、分解すると営業部門へのリードの供給を絶え間なくおこなうことができることが重要要素であることが読み取れます。その際に、営業個人個人が持っている名刺情報も含めて、デマンドセンターが管理を行うべきともいいます。複数の事業を展開している企業の場合、事業部横断的にリードを供給できる横串的な組織として位置づけるのが良いのでしょうか。

本書では「マーケティングオーケストレーション」を設計するうえで必要となる様々なポイントを紹介しています。

MA(マーケティングオートメーション)がうまく使われない理由

本書では1つの章を使って、MAがうまく使われない理由が説明されています。戦略の不在が最も大きなものとして扱われていますが、データがきれいではない、というのもマーケティング担当者などからすると理解できることでしょう。

<マーケティングオートメーションがうまく使われない理由>

  • 戦略の不在
  • データの重要性への無理解/管理方法についてのナレッジがない

本書p183では、B2Bマーケティングの世界におけるデータ解析の最先端の話として、以下のようなことを挙げています。

社内に蓄積した様々なデータと外部のセカンドパーティー、サードパーティーデータを紐づけたり前ぜ合わせたりして分析することで、「どの企業」が「どの分野」に「いつ」「どの規模」で投資するかを予測する

ーp183

企業名の名寄せができていなかったり、企業規模などの情報が自社のデータベースに格納されていないがために、既存のリード一覧からどの領域をターゲットとして、見込み案件にもっていくのかという戦術がたてられなくなることが問題であるといいます。

つまり、リード情報や既存顧客リストが一元的に管理できていないことは、マーケティングオートメーションを導入してもうまく利活用できず、大きな機会損失に繋がりかねない、ということです。

デジタルサービスの展開に必須のID管理

昨今ではSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)モデルでデジタルサービスを展開することを企画する企業も多くなってきています。そのためユーザーのIDを捉えることは可能になってきていますが、それらのデジタルサービスがMA(マーケティングオートメーション)ツールと連動することがあまり考えられていなかったり、そもそもMAの守備範囲とID管理の守備範囲を理解せずに設計開発などが進んでしまうケースもあります。

デジタルサービス展開におけるマーケティング戦略立案時に検討することとして以下のようなポイントが挙げられると思います。

  • MA(マーケティングオートメーション)ツールの位置付け:
    コンテンツ展開を行いながらフリーミアムでのユーザー登録を誘導する場合、ユーザー登録前の顧客をニュースレターで獲得する、などのようなことを考えるべきでしょう
  • ユーザーID情報をどのように管理するか
    見込み顧客も、フリー、有償ユーザーもすべてCRMに統一して管理することが理想ですが、何かしらの制約がある場合にはどこで何を管理するのかを検討する必要があります
  • どのようなプロセスに基づくか
    展開するビジネスによっては営業一本釣りのようなビジネスもあろうかと思いますが、スケールを求めるデジタルサービスの場合、ウェブからの流入によるオーガニックなユーザー獲得も目指す必要があります。その場合どこで見込み顧客が迷子になってしまうかなどを想像し、それを改善するための施策を立案し、KPIを設定し、改善活動を行っていきます

上記のようなことを整理しながら湧いてくるのは、以下の図のような体制・システム図かと思います。前述のように、デマンドセンターを組織横断的に創出することはもちろん、デジタルサービス展開にあたってもシステム的に横断的な機能を統合したプラットフォームが必要になってきます。このプラットフォームはイチから要件定義、設計、構築するとかなりの工数がさかれてしまったり、構想を整理するだけでも1年かかってしまうこともあります。そのため、TC3では、プラットフォームを設計、構築する際にはなるべく出来合いのSaaSを活用することをおすすめしています。そうすることにより、自社が集中すべきビジネス創出活動にフォーカスすることができ、開発はなるべく抑えることができるからです。

おわりに

儲けの科学 The B2B Marketing』は、すでにマーケティングに従事している目線でもたくさんの学びがある本でした。TC3でも、デジタルビジネスの展開というお話をいただくと、ほぼ必ず「MA」という言葉が出てきます。企画時点でMAとの連携などを意識できていることは、業績を加速する一つの成功要因としてあるかと思いますが、それを機能させるための仕組みや、システムとの役割分担などを明確にしておく必要があると思いました。

システム観点で統合ID基盤プロジェクトの進め方は以前ブログにも書いておりますので、より技術カットで進め方を整理していかれたい方は、こちらの「統合ID基盤プロジェクトにおける上流工程でのチェックポイント」をご参照ください。冒頭の引用にあるように、製品開発・マーケティング・営業の3つのチームが連動することが収益の最大化につながるはずですので、今回ご紹介したようなマーケティング視点についても一度整理していただくきっかけとなれば幸いです。

ソリューションサービスのご紹介

TC3はOkta CIC(Customer Identity Cloud)を代表とするIDaaSを活用したデジタルサービス開発のプロフェッショナルです(Customer Identity Cloudの認定も取得しています)。

すでに実践的に設計・実装された基盤サービスとして2024年5月末に、「Tactna Identity Platform」を発表しました!このサービスを活用いただくことで、事業部やサービス間の調整を減らし、リリースまでの期間を早め、ユーザー体験を向上させるといったメリットの多い開発プランをご提供します。

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