製薬会社 ブリストル マイヤーズ スクイブのAIを活用した医学論文読解を支える社内ウェブシステムのデザインから開発までを一気通貫に支援

DXアイデアコンテストから提出された現場アイデアを形に

 グローバル大手製薬企業ブリストル マイヤーズ スクイブの日本法人であるブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社(以下、BMS)は、社内外の問題をデジタルで解決するため、全社員参加型のDXアイデアコンテストを開催し、社内から約130のアイデアを収集した。その中の1つのアイデアを起案したのが、今回同社メディカル部門に所属の小野塚氏だ。

 新型コロナ感染症の拡大とともにオンラインでの仕事の比率が拡大する中、医学文献を読むというメディカル部門に所属する社員の重要なタスクをより効率的かつ簡単に行えないかと考えていたと語ります。

「医学文献を読むとき、問いに対する回答を探しながら読み進め、文献の端にメモをとり、読み終わったらファイルに保管していたのですが、コロナ禍で在宅勤務となり文献を印刷できなくなって不便に感じていました。」-小野塚氏

 このような課題感や、BMS社内での調査結果では、年間240時間〜360時間が論文を読む時間に費やされていることも明らかになり、「AIを活用して英語の医学文献の翻訳・要約をより容易に行い、チームで共有する」システムのアイデアの種が生まれました。社内投票による社員からの賛同を経て、2020年冬にMVP(Minimum Viable Product, 実用最小限の製品)として展開するイメージをデザインとして落とし込むプロジェクトが実施されました。このデザインを元に役員による評価を経て、社内システムの開発へ進み、難易度の高い技術課題を乗り越え、2022年夏 メディカル部門を中心に利用が開始し、順調に活用されています。

システム開発の軌跡

約2ヶ月で、技術調査を実施しMVPとしてのデザインプロトタイプを作成

 2020年秋、DXアイデアコンテストが社内で開催され、社員から約130のアイデアが収集されました。その後、社内投票により10のアイデアが選出されました。その中の1つのアイデアの起案者であるメディカル部門 小野塚氏を中核に、研究開発部門の武藏氏、大形氏を含め3名のメンバーとTC3の共同プロジェクトが立ち上げられました。

 新規サービス開発を得意とするTC3は、リーンスタートアップにおけるMVP(実用最小限の製品)という概念を元にアイデア起案チームへのヒアリングを進めました。「TC3として意識したのは、実際にユーザーが使う価値があるコアの部分をターゲットとしたデザインをご準備することであり、さらにはそれを実現するために大きな技術課題が無いかをこのフェーズで確認することでした」と、TC3 代表取締役の須藤は語ります。

 本開発に入る前のこのフェーズでは、Figmaを活用し、触って操作できるデザインプロトタイプを作成しました。触って操作できるデザインプロトタイプをスピーディに提示し、修正を繰り返すことで、アイデア起案時点では気づけなかったような課題を、ユーザー視点、技術視点、ビジネス視点それぞれで発見することができました。「このステージでは、とにかくコミュニケーションと制作のスピードを重視しました。そうすることにより、様々な課題に対する討ち手や方針を本開発前に検討することができ、事業としてのリスク軽減と本開発の効率向上に繋がります。」とTC3デザインリードの鶴田は振り返ります。

 デザインによるイメージ合わせ、MVPの定義を行うと同時に、技術的課題が無いかを調査することも並行で行いました。「アイデアが先行した場合に陥りがちな問題点として、何でもかんでも詰め込んだものにしてしまうことです」当時を振り返り須藤は言います。「そのような罠に陥らないためにも、技術調査を同時並行で行うことで夢物語のサービス像なのか、数ヶ月かければ作れるものなのかの見極めをすることができます」

 このようにデザインプロトタイプ作成と技術調査などの活動を通して、約2ヶ月間という短期間で、ユーザーの課題を解決する最小限の価値を備えたデザインプロトタイプを作成することができました。本フェーズを振り返り、BMS様、TC3メンバーからのコメントをご紹介いたします。

(初期フェーズのデザインはシンプルにユーザー体験を明らかにすることにフォーカス)

「実際のデザインを見ながらディスカッションしてすり合わせすることができたのは良かったと思います。このような形でデザイン化を進めるのはこれがはじめてでしたが、対応の早さが印象的でした。」- BMS 武藏氏

「アイデアコンテストの時点ではイメージでしかなかったのですが、プロトタイプではデザインを見ながら議論することができたため、いくつかの機能を追加し、プロダクトをより魅力的にすることができました。また、プロトタイプの段階で、ある程度の完成後の動作を確認することができたため、アイデアでは見つけることができなかった課題を見つけ、それを議論することで、スムーズにプロダクト開発につなげることができたと思います。」- BMS 小野塚氏

「デザイナーとしては、与えられた期間の中で10回はプロトタイプを作り直す覚悟で挑みます。スピーディなプロトタイプ作成を実現するためには、ビジュアルブランディングデザインや細部のピクセルパーフェクションに時間を割かず、ユーザージャーニーに沿った最初から最後までの一連の流れを疑似体験できる状態を作ることにフォーカスしています。密なコミュニケーションと細かいイテレーションを繰り返すことで、今回も全員が納得がいくプロダクトに着地できたと感じています。」- TC3 デザインリード 鶴田 (IDEO U Foundations in Design Thinking 修了デザイナー)

ユーザーを巻き込んだアジャイルな開発

 デザインプロトタイプでの成果物が評価され、サービス化に向けてのプロジェクトが2021年夏より開始しました。「AIを活用して英語の医学文献の翻訳・要約をより容易に行い、チームで共有する」サービスでは、Amazon Web Serviceのパブリッククラウド環境を中心に、SaaSも組み合わせ、一般的に提供されていない機能は独自で開発を進めました。

 最も難関だったのがPDFをサービスにアップロードし、表示、ハイライト、文章を認識して切り出す(クリッピング)する機能です。Topcoderのコンテストを活用することで、PDF関連のアプリケーション開発に強いエンジニアを集め、彼らのサポートを得ながらこの機能を開発していきました。

 開発フェーズにおいてはアジャイル開発の考え方で、TC3が開発チーム、BMSがプロダクトオーナーといったチーム構成を取り、1ヶ月に1回の定例ミーティングの中でそこまで開発できたもの、リスク/課題など共有を密に行い、プロジェクトを進めました。

「実際にデモを通じて具体的に過程が見えて、早い段階で共通認識を得たうえで進めることができたことは良かったと感じます。」- BMS 武藏氏

シンプル版を3ヶ月程度、よりユーザーに積極的に使ってもらえる「チーム共有機能」部分を追加した本番リリース版を3ヶ月程度の大きなサイクルを回し、その大きなサイクルの中ではDaily Standupやデモデイなど小さなアジャイルのサイクルを回し、かつグローバルのエンジニアとの共同作業により開発を完遂させることができました。

 開発環境としては継続的インテグレーションの環境を開発当初から準備することで、自動化された開発プロセスを組み、日々開発されるコードをインテグレーションしていきました。BMS社員の方々が利用するにあたり、IDaaSサービスを活用し、BMS社内の認証基盤と連携しスピーディにSSO(シングル・サインオン)の機能も実装をいたしました。

「PDFアップロードからハイライト、クリッピングまでの機能はTC3だけの力では開発できませんでした。グローバルの専門家の知識を使うことで、お客様の期待する品質まで高めていくことができたと思います。また、デモデイでは実際に利用される方に近い観点(反応速度やユーザーが自然に使える)でのフィードバックがあったため、利用者がストレスがないようにチューニング開発をいたしました。今回のようなチーム体制での開発により、リリース時にユーザーの期待通りに動作するということを実現できたと思います。」- TC3 プリンシパル・エンジニア 木幡

TC3の独自の開発プロセス

今後の展望

プロジェクトとしては約1年近くの期間をかけ、TC3のサービスを活用しながら、「AIを活用した文献読解サービス」のリリースを達成しました。BMS メディカル部門では本サービスが積極的に利用され、日々の論文を読む業務を効率化していることが実感されています。

(利用されているシステムトップ画面イメージ ※要約文などはダミー)

 現在は特定の部門での活用ですが、今後は利用する部署の拡大を通して、医学論文の文献読解の補助としてはもちろん、社内でのナレッジ共有が促進されることで、ある専門分野の社員のナレッジが他の部署の社員のナレッジの種になる、そのようなサービスに向けて育てていくことが考えられています。

 2020年からスタートしたプロジェクト全体を通して、お客様より以下のコメントを頂いております。

「対応スピード、技術、そして実際にシステム化まで完了した実績を評価しています。」 – BMS 武藏氏

「技術開発力の高さがとても印象的でした。アイデアの段階では、いずれかのタイミングで、現在の技術では難しい課題に直面することを不安に思っていましたが、プロダクトが完成したことが技術開発力の高さを証明していると思います。特に、PDFアップローダーは素晴らしいと思います。また、ユーザーの使いやすさを考慮くださった、気のきいたデザインもとても素敵だと思います。」- BMS 小野塚氏

おわりに

 TC3は、お客様の社内外の課題をデジタルで解決し、お客様のイノベーション実現のご支援をするため、「デジタル顧客接点トータルサービス」や「DXキックオフパッケージ」を提供しています。今回ご紹介したBMS様での取り組みは、デザインフェーズから技術的な調査を盛り込むことで、先回りして技術課題を排除し進めるTC3独自の手法です。スピーディにサービス展開したい、デザインに落とし込みながら、リーンスタートアップなどの考え方を取り込み要件定義を進めていきたい、などといったご要望がございましたら、お気軽にご相談ください。