はじめに

 TC3では会社及び個人の目標をOKRと呼ばれる仕組みを導入し、メンバーは四半期ごとにOKRを設定し、設定した目標に沿って業務及び会社の改善活動を行っています。

この記事では、「OKRで目標の進捗率60~70%(注1)を確実に達成するために必要な、具体的な工夫」についてご紹介します。

  • 「OKRで良い目標を立てるものの、進捗率20~30%で終わってしまう」
  • 「OKRのObjective, Key Resultsを設定するところまではいいが、目標管理がうまく続かない

このように、OKR開始後、個々の目標管理がうまくいかず、気がつけばOKRのReview期間を向かえてしまうことはありませんか?

目標は、仮にストレッチなレベルの設定であっても、なんとかして達成したいんだ!と思っている人はきっと多いはずです。

本記事では、Objective・Key Resultsの進捗率のUPを確実に狙うことで、あなたのモチベーションが維持されるような目的管理の工夫を提示します。本記事は、現在進行系でOKRに取り組んでいる方々を対象読者としています。あくまで、「個人OKR」に焦点を当てて、進捗率60~70%を確実に達成するために必要な工夫は何か、巨人の肩に乗り、模索していくことにします。

なお、ここで取り扱うOKRの流れは、読者の皆様と認識をすり合わせるため、以下に従い運用されるものとします。

本記事で取り扱う「OKR運用の流れ」

実際に進捗率60~70%に到達したObjectiveは少ないかもしれない

OKR運用時のポイントとして、「Objective(目標)はストレッチなレベルに設定する」ことが挙げられます。目標の難易度を上げて明確なゴールを設定し、チームメンバーならびに個人のパフォーマンスを向上させることが狙いであるためです。一方、このストレッチ目標の一側面が起因し、以下のような状態を拝見するようになりました。

これらの状態(☆)が起きると、「OKRの目標が決まるまでは良いが、その後やる気が維持できているとは言えない」状況が続くと予想されます。なお、OKRの目標が決まるまでは良い、と記載した理由は、OKRのObjectiveには、達成したらワクワクするようなことをObjectiveとして取り入れるからです。(補足ですが、本記事ではObjectiveの設定が、FASTの法則に極力従っているものとして、「A: Ambitious(野心的な)」の要素からワクワクするようなことと、表現しました)

良さそうなOKRが完成した後、上記の実際に起こる状態(☆)は、一体OKR運用の流れにおいてどの段階で生じるものなのでしょうか?今回取り上げた例を解釈すると、どうやら「OKR開始〜OKRの進捗チェック」の間で起こっていそうです。

もしかしたら、マネージャーはそのように思っているかもしれません。

「OKRというフレームワークが、Google, Facebook(現Meta), LinkedIn, Oracleなど、国際的に有名なIT企業に順次普及したほど強力なものだ」という裏返しの結果、うまく回るだろうと思ってしまう。フレームワークの影響なのかもしれません。

しかしながら、ここでは「個人OKRを達成するのは自分なのだから、自分でなんとかしたい」というオーナーシップをもとに考えていくことを、強調しておきます。

筆者自身、「適切なストレッチレベルの目標を設定し、わくわくするモチベーションを維持しつつ、日々進めようとする目標管理が出来ないものだろうか…」と、頭の中にはイメージとしてありました。OKRの運用の流れで言うならば、こんな感じです。

著者の頭の中のイメージ

 「人は、1年で出来ることを過大評価しすぎる」

ひとつ前のセッションでは、「実際に進捗率60~70%に到達したObjectiveは少ないかもしれない」という仮説と、少なからず「OKRの目標が決まるまでは良いが、その後やる気が維持できているとは言えない」状況が現に起っていることについて触れました。ここでは一つ、「そもそも、ヒトが目標を定めるときに起こってしまう現象」について補足しておきたいと思います。

このセッションタイトルは、アメリカの名コーチであるアンソニー・ロビンス氏の言葉を引用したものです。この言葉は、「人は、1年で出来ることを過大評価しすぎる。そして、10年で出来ることを過小評価しすぎる」と続きます。

セッションタイトルの言葉の意味は、例えば、今年1年間で、資格A、B、Cを取得する、TOEICのテストで820点を取る、と目標を立てると、「ヒトは、1年で出来ることを過大評価するので、今年1年間でやれる」と思ってしまう。しかし、これらを1年間ですべて達成しようとすると、「全部やろうとする」ので挫折する。挫折すると、1年後の自分は「この1年間では、何も達成できなかった」と思うかもしれない。「だから、10年後も大して変わらないだろう」とも思う。でも、「だから、10年後も大して変わらないだろう」は大きな勘違いであり、ヒトは10年で出来ることを過小評価するもの、という内容です。

「OKRは3ヶ月間の目標だから」と言ってしまえばそれまでですが、ヒトは、3ヶ月間の目標を立てるとき、果たして過大評価せずに目標を立てられると言い切れるでしょうか。ここに、一種の認知バイアスなるものがあると筆者は推察します。すなわち、「個人が目標を立てた段階で、その目標内容は心理上の点で壮大になりがち」ということです。

恐縮ですが、「1年間ではなく、3ヶ月という期間に関する実験と検証結果はどうなのか」について、何か根拠となるデータを、今回探すことはできていません。

ちなみに、OKRでは「個人が定めたOKRを他のメンバー全員と共有することで、Objectiveに対する適切な紐付けがなされているか」を客観的に確認し、サポートし合うことや、目標を3~5個に絞ることがポイント(注3)とされています。もしかしたら、これらのポイントは一種の認知バイアスを回避するために抽出されたものなのかもしれません。

ここで注意しておきたいことは、「個人が立てた目標を達成するにあたり、心理的な見積もりが過大評価されてしまう可能性」についてはクリアになっていないという点です。OKRのポイント(注3)により、「個人の目標内容を適切なストレッチ内容に修正できる」効果は、期待されます。しかしながら、「目標を立てた後、定期的に目から入ることになる目標」には関与していない、ということです。つまり、OKR達成のために日々の進捗を管理するシーンでも、「ヒトは、立てた目標が、心理上は壮大に見えて」しまう

こういうケースの場合、「システム化された力をうまく利用し、効果的な治療薬として充てる」ことが有効なことが多いです。そこで本記事のタイトルにもある、「OKRで目標の進捗率60~70%を確実にする、具体的な工夫」についていよいよ触れていきます。

ポイント1:1つのKRを達成するために必要な、マイクロタスクを10~20個書き出す

前セクションで、「ヒトが立てた目標内容の心理的な見積もり自体が、過大評価されてしまう可能性」について触れました。ここで強調したいのは、「適切なストレッチレベルの目標を設定し、わくわくするモチベーションを維持しつつ、しかし心理面では過大評価を抑え、如何にして達成していくか」ということです。ストレッチ目標を立てることが悪いことではありません。OKRの目標が、実際に達成していこうとする上で、壮大な目標に見えてしまう、という”心理上の見積もりレンズ”を矯正したい、ということです。

たとえば、「料理経験ゼロから、3ヶ月間で帝国ホテルで提供されるカレーを作る」という野心的なObjectiveを立てたとして、Objectiveに紐づくKRは「作ったのを5名に食べてもらい、5段階中3.5の評価をもらう」を定めたとします。

本セクションタイトルにある「マイクロタスクを10~20個書き出す」とは、「KRを定めたら、KRを達成するために必要そうな、マイクロタスク(小さく分けた、タスク)をブレスト形式のように書き出す」ことを指します。具体的には以下のようなイメージです。

ここでのポイントは、「KRを達成するために必要なマイクロタスクの内容」は、高い確率で、確実に達成できる内容にすることをおすすめします。3分あれば達成できるタスクであっても、立派なマイクロタスクです。

セクションタイトル上は「10~20個書き出す」と記載しました。しかし、この数はあくまで目安であり、「自分が確実に達成できるマイクロタスク内容」でしたら、30個でも40個でも構いません。「KRを達成するために必要な細切れタスクは何だろうか…」をざっと記載していくことが重要です。

ここまでの流れとして、「料理経験ゼロから、3ヶ月間で帝国ホテルで提供されるカレーを作る」というObjectiveに対し、KRは「作ったのを5名に食べてもらい、5段階中3.5の評価をもらう」を定め、「KRを達成するために必要なマイクロタスク」を15個記載してみました。マイクロタスクを記載することで「料理経験ゼロなのに、自分が作ったカレーを試食してもらって評価をいただく、なんて壮大な目標すぎはしないか?…」から、「マイクロタスクをコツコツこなしていけば、少なくともKRの一つは達成できるぞ!!!」に心理的ハードルが下がった気がしませんか?

少なくとも、マイクロタスク化する(言語化する)ことで「やることの見える化」に繋がり、漠然とした目標から具体的なイメージに落とし込むことができるのではないか?の効果があると推察します。

ポイント2:KR達成のために確保できる時間を算出する

コツコツと、マイクロタスクを達成していき、結果的にKR達成につなげることを考えた際に、「物理的に確保できる時間」についても算出しておく必要があります。これは、皆さんが「日々の業務対応スケジュールで当然のようにやっていること」かもしれません。しかしながら私たちには目標が、壮大な目標に見えてしまう、”心理上の見積もりレンズ”が存在する可能性が高いため、きちんと数字と結びつけて可視化する必要があると考えます。

物理的に確保できる時間と、マイクロタスクを達成するために必要な時間を見積もり、「結果的に、KRを達成することに繋がるかどうか」を検証していくことに繋がります。

「料理経験ゼロから、3ヶ月間で帝国ホテルで提供されるカレーを作る」という野心的なObjectiveを立てる → Objectiveに紐づくKRは「作ったのを5名に食べてもらい、5段階中3.5の評価をもらう」→ KR達成のために必要なマイクロタスクを15個書き出し可視化する(工夫その1) → KR達成のために確保できる時間を算出し可視化する(工夫その2)の流れを踏むことで、以下の追加ステップを踏むことがより簡単になります。

  • KR達成のために必要なマイクロタスクは、他には存在しないだろうか?
  • KR達成のために必要な、一つひとつのマイクロタスクの達成に要する時間と、ひとまず物理的に確保できる時間( 66 h )から計算される、時間配分
  • マイクロタスクの時間配分から、「e.g. マイクロタスク15個中10個達成できれば、KRの進捗率が66%になりそう」と概算できるかどうか
  • あるいは、マイクロタスクの時間配分から、「ひとまず物理的に確保できる時間だと、マイクロタスク15個中5個しか達成できなさそう」であれば、e.g. 2つ目のKRで調整する

……

一つ前のセクションで述べた「1つのKRをマイクロタスク化」と、「KR達成のために確保できる時間を実際に算出する」の2つの工夫を取り入れることで、あなたのOKRの進捗率はより良くアップするでしょう。

OKR実践から得られる成果を最大限にするために

OKRはそもそも、如何にして個人目標を達成させるかが重要であり、如何にして個人でマネジメントをするかがポイントになります。

OKRの進捗率をより高めるために、「1つのKRをマイクロタスク化する」「KR達成のために確保できる時間を実際に算出する」の2つの工夫を取り上げました。これらの工夫により、「適切なストレッチレベルの目標を設定し、わくわくするモチベーションを維持しつつ、かつ進捗管理の心理としては過大評価を抑えながら、確実に達成していくか」につなげることを提示しました。

手前味噌ながら、著者は上記の工夫を取り入れ、個人目標の管理方法が円滑になりました。「毎回のQuarterで、進捗率60~70%が達成できているか」というと、まだまだ試行回数が少なく、またN=1の結果でしかないので、また次の機会で記事に結果と考察についてまとめてみることを検討します。

これら2つの工夫自体は、「頭ではなんとなく理解していた内容」「目標管理で既に使われている手法」であったかもしれません。ここではただ、OKR実践から得られる成果を最大限に活かすためにはどうすれば?を模索したら、浮かび上がったのはこうだった、という提示をすることで、少しでも良い個人OKRの目標管理に繋がればと思い、まとめた次第です。

(あくまで、巨人の肩の上で、探索や発見を行うというのは、こういうものだと自負しております。)

現在進行系でOKRに取り組んでいる、1人でも多くのエンジニアのためになることを祈って終わりとします。

(執筆:村山智寿)

注釈および参考記事

注1: ここでは、Googleのre:Work「OKRを設定する」の内容を参考にしております。https://rework.withgoogle.com/jp/guides/set-goals-with-okrs/steps/introduction/

注2: SMARTの原則とは、成果指標を作る上で効果的な5つの要素のこと。S: Specific(具体的である), M: Measurable(計測可能、数値化されている), A: Achievable(達成可能な), R: Related(関連性がある), T: Time-bound(期限がある)

注3: FASTの法則とは、目標設定をより効果的なものにする4つのコアのこと。F: Frequent(頻繁に議論される), A: Ambitious(野心的である), S: Specific(具体的である), T: Transparent(組織の全員から見えるよう透明性が保たれるべき)

(1) https://resily.com/blog/14233 「OKRにおける成果指標(Key Result)とは?設定時のポイントや具体例を紹介します」- セッションタイトル: SMARTの法則 より

(2) https://www.lifehacker.jp/article/if-smart-goals-dont-work-for-you-try-fast-goals-instea/ 「目標設定は「FASTの法則」で。実現可能な目標を4つのコアで立てられる」 – セッションタイトル: FASTの法則とは? より

(3) https://logmi.jp/business/articles/320438 「OKRの運用のコツ・課題・効果とは?メルカリとSansanが明かす、試行錯誤の道のり」セッションタイトル: がんばれない理由は、制度よりも納得感や目標の立て方にある lines: 14-16 より

(4) https://jp.active-connector.com/featured-articles/whywefailedinokr 「OKRの失敗事例:私たちがOKRに失敗した3つの理由」セッションタイトル: OKR導入の2年間の歴史と背景 lines: 11-12 より